紙、段ボール、木材、発泡スチロール、粘土、ガラス、革・・・
これまでに、いろいろな材料を使ってきた6年生に、
「最後に、使ってみたい材料はある?」と尋ねると、
なんと「鉄」という答えが返ってきた。
しかも、クラスや男子女子を問わず。
これは、「鉄」を使うしかない。
実は、ちょうど針金を使った題材を計画していたので、
これは、線材に限定せず、
いろいろな金属を扱うのは、よいかもしれない!
ところが、金属と一言で言っても、簡単ではない。
6年生は「鉄」といっていたけど、
鉄(Fe)だけでできているものは
案外、私たちの周りに少ない。
「鉄」と思っているものが、実はアルミニウム(Al)だったりするし、
複数の金属を合金してつくられた鉄鋼(スチール)であったりする。
私たちの身の回りには、
すず(Sn)、なまり(Pb)、銅(Cu)、
ニッケル(N)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)など様々な金属があり、
それを足し算することで(これを合金という)
クロム+ニッケル→ステンレス
アルミ+銅→ジェラルミン
銅+亜鉛→真鍮
というように、様々な金属がつくられて、いろいろな場面で使われている。
そんな話を6年生に話しながら、金属と出会ってもらった。
しかし、この金属、簡単には形が変わらないものばかり。
これまで6年生が扱ってきたものと比べると、
抵抗感が高く、扱いづらさがある。
そこで、いろいろと調べながら、
焼きなましや焼き入れによって
金属が加工しやすくなることがわかってきた。
早速、やってみる。
給食室からいただいたスープ缶、
ゴミ箱にあったアルミ缶など、
いろいろな金属を窯に入れて焼いてみた。
600度で1日かけて焼いてみたら、
ボロボロになってしまって、柔らかすぎた。
温度を500度にしてもう一度やってみると。
適度に形が変えられるくらいになった。
これなら、6年生も材料として使えそうだ。
しかし、どんな道具で、どうやってつくればいいのだろう。
鉄作家の知人を訪ね、
鉄の扱いについて教えてもらうことにした。
すると、金切バサミでサクサク切って、
とにかくハンマーで叩く叩く叩く・・・
とにかく叩いて形を変えることを
「しぼる」という。
そして、あっという間に、鉄は形を変えてしまった。
「鉄は柔らかいですよ」というから驚く。
正しいつくり方を知ってほしいわけではない。
鉄に触れ、形を変える感触を、体で感じてもらいたい。
そして、その感触から、自分なりの思い、
美しさや面白さなどの価値を
見つけ出してもらえたら良い。
そして、実際に「鉄」と出会った6年生。
なかなか思うようには扱えないが、
その抵抗感に、夢中になって向き合う。
鉄も、切れるんだということが、身をもってわかる。
こんなふうに、缶をバラバラにすることもできる。
最初の1回は、手を動かしながら、
鉄とかかわり、自分なりの行為を見つけていく。
叩いてみる。
鉄を叩く音が、響き渡る。
丸太や角材などの台を選び
その台の上で叩くことで、鉄がしぼられていく。
「鉄って、柔らかい!」と言う子が現れた!
鉄との新しい出会い。
新しい感触。
2回目
いよいよ、自分のイメージをもって、形にしていく。
鉄でないとなかなかできない形が生まれてくる。
繋げるのは、釘で穴をあけて
リベットで固定かと考えていたけれど、
初めてみたら、グルーガンでどんどん繋げたり
皮加工で扱った
カシメを応用して繋げる子も現れた。
カシメがちょっとしたアクセントになって
なかなか格好いい。
さらに土台をつくりビスで止めたり
針金でつなぎ合わせたり、
自分がこれまでに経験したことのある方法を活用して、
ブリコラージュ(寄せ集めでつくる)していた。
はんだごてにチャレンジする子もいた。
鉄をつなげる「溶接」に近いことを考えていて、
驚かされる。
そうして3回の授業を終え、
自分なりの形が、それぞれ現れた。
これは、鉄の椅子。
一見、固くて冷たそうな鉄の、
柔らかさや温かさを感じながら、
自分にしか見付けられない、形を見つけ出すことができた。
鉄(金属)を扱うのはもちろん初めてだったけど、
これまで経験してきた、いろいろな知識や技能が、
しっかり生きていて、
6年生は、材料に適した扱い方を、
自分なりに考え合わせながら見付け出していた。
「鉄の魚」という作品は、
鉄を叩いてしぼるという行為の連続の中で
叩いた鉄の表情の感じから、
うろこを思いつき、魚になっていった。
表面にあしらわれいるのは
左から、紙、い草、木、革、プラスチックと
鉄だけでなく、
これまでに経験してきた材料を並べて表している。
いろいろな材料と対比させることで、
鉄というものの質感を際立たせようとしているようにも感じる。
6年生のリクエストから生まれたこの題材。
多少の難しさはあれど、やはり本物を相手に挑むことは、
楽しい、面白いことだなあということ。
だからこそ、6年間で積み上げてきた経験が試される中、
ちゃんと、力を活用して、
こんなこともできるようになったんだなあということ。
いろいろなことを感じる実践だった。